小さな里山には、何ものにも代え難い穏やかさとささやかな幸せがあった。金沢市郊外の山村。12年前、2人の外国人女性が古びた民家に住み着いた。暮らした時間は静かに堆積し、この六月、村で起きたエピソードを繊細に紡ぐ小説『星の降る村』に結実した。
著者は、日本文学に魅せられた米国人パティ・クリスティナ・ウィリスさん。人と動物たちの営みが解け合う物語の世界は、独創的で不思議な味わいを醸し出している。
「このストーリーが家への恩返しになりました」。戯曲に関心を持ち、世界中の演劇を見る旅へ。平安文学に引かれ来日したのは1983年。住みかにと見つけた家は倒壊寸前だった。親友の作曲家メアリー・ルゥ・プリンスさんと汚れにまみれながら、2人は家を整え、花を植えた。
自然に恵まれた田舎暮らし。家には大きいクマネズミも出た。暴れ回ったが、人間には打つ手がない。そんなとき、やがて、この物語を書くことへと誘う出会いがあった。近くの森を散策中、毛並みの白いネコが突然、肩に飛び乗ってきた。「エンジェル」と名付けた。ネズミをけちらし「同居人」となって暮らすうち、ネコの目線と重なった。
あるとき、庭の小木が突然土に沈んだ。モグラが穴を掘っていた。教えてくれたのは、ネコだった。「この先に、どんな世界があるのだろう」。冬が来れば、隣家に入り込み越冬するムササビ。カモシカやタヌキも目の前に現れる。「きょうは、どんなストーリーが起きるのだろう」と。
物語で、村は「ラッキーフィールド」と呼ばれ、2人の旅人が訪れるところから始まる。村人たちの人間社会と動物たちのアナザーワールドが混在。事実とフィクションが織り混ざる。境界線を消す存在が、主人公のエンジェルだ。「都会では、人が自然から離れている。想像の中に事実がある気がするんです」
どこの街に何年住んでも「外人さん」だった2人は、村に住んで初めて、ただの「姉ちゃん」になれたという。住む家にも「昔からの生き方が浸透している」。「村には、自然を分かち合う共存共栄の暮らしの知恵も生きている」と言う。豊かな自然と季節。素朴な人間性。毎夜、美しい夜空が今も覆う村と家は、都会とは時間の流れが違う世界であり続け、物語の世界と同化する。「いつか、空から村を見てみたい。周りは、きっと素敵な森だと思う」
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