里山の暮らしおとぎ話に

金沢・福畠の降る民家に12年自然・ふれあい描く!

金沢市福畠町の米国人作家パティ・クリスティナ・ウィリスさんが、自身が暮らす集落での出来事をモデルにした小説「星の降る村」を出版した。小説に登場する“ラッキー・フィールド”は福畠町の直訳。山村の小さな集落で感じた季節の移ろいや村人とのふれあいを、「おとぎ話」として描いている。
ウィリスさんは、親友でピアニストのメアリー・ルゥ・プリンスさんとともに1983年に来日した。ウィリスさんは日本の中世文学、プリンスさんは邦楽を学ぶのが目的だった。
 当初は金沢市中心部に暮らしていたが、12年前、本格的に始めた陶芸の拠点を求め、福畠町にあった朽ちかけの民家を買い取り、プリンスさんとともに移り住んだ。市東部の郊外の福畠町は約20世帯。里山が広がり、キツネやタヌキが当たり前のように出没し、夜になるとムササビも飛ぶ。
 小説も、山間の小さな村ラッキー・フィールドに2人の旅人がやってくるところから始まる。
 異国から来た「大きい方」と「小さい方」は、この村の古い民家に一目惚れし、そこに住み着いた。少し癖のある村人にとけ込もうとする旅人。物語は日記のようにつづられ、春夏秋冬を進んでいく。この村には人間社会とは別に、動物たちの社会が存在した。そして、もう一つ、村には大きな秘密が隠されていた……。
 ウィリスさんは「街では、何年暮らしても、『外人さん』だった」と振り返る。それが、福畠町では様子が違った。
 舌をかんでしまう発音の名前は、なかなか覚えてもらえなかったが、小さな集落の人間関係は濃密だった。誰がどんな人か、お互いが分かり合っている。そんな関係が窮屈に感じた時もあったが、人情は厚かった。家の修理を当たり前のように手伝い、取り立ての野菜を譲ってくれた。
 村で出会った僧侶(故人)は「自分たちの考えも大事。でもそれ以上に生かされていることへの感謝が大事」と説いた。
 小説の結末で旅人は、望郷の念にかられ、ラッキー・フィールドを後にする。だが、現実は少し違った。
 ウィリスさん自身、この小説を書いた時は、米国へ帰るつもりだった。「家を買いたい」という日本人家族も現れた。子どももおり、「集落にとっては子どもの人口が増える方がいい」と思い、村人に打ち明けた。
 だが、返ってきた言葉は、
「どうして? まだ返る時期じゃない」
 その時から6年。ウィリスさんは「街では『外人」だった私たちですが、この村に来て、ただの『姉ちゃん』になったんです」と笑い、「この村で教わった、自然や宇宙に感謝し、共生することの大切さを、小説を読んだ人に感じてほしい」と話す。
(2005年6月22日 朝日新聞朝刊より)